大学や同窓会組織にとって、卒業生とのつながりを維持することは重要な課題です。「校友会アプリ」は、その課題を解決するためのソリューションとして、注目されています。今回は、校友会アプリに焦点を当て、その意義や重要性について解説していきます。1. 校友会アプリの意義アプリという言葉はいくつかの定義がありますが、本記事においては「スマートフォンから利用できるネイティブモバイルアプリ」のことを指しております。校友会アプリといっても、大学の近況やキャリア支援情報を発信するものや、会員証の機能を果たすものなど、大学によってさまざまな役割や目的があります。校友会アプリには、どのような意義があるのか、主な機能、メリット、デメリットと細かく分けて見ていきましょう。1-1. 校友会アプリと校友会WEBサイトの違い今までの校友会からの情報発信は、会報誌やWEBサイトが主流でした。まずは従来の校友会サイトと校友会アプリの違いについて解説します。ダウンロード通信速度開発コスト主な目的アプリ必要速い高いリピート率を上げるWEBサイト不要普通低い新規獲得アプリはダウンロードが必要で、パフォーマンスが速く、プッシュ通知などでユーザーエンゲージメントを高め、オフラインでも機能するという特徴があります。一方で、WEBサイトはモバイルに限らず各種端末のブラウザから簡単にアクセスでき、ダウンロード不要で広範な情報にアクセス可能です。さらに校友会アプリの特徴を解説します。・アクセスのしやすさアプリならではのメリットにアクセスのしやすさがあります。一度アプリをダウンロードすれば、アプリを削除しない限りホーム画面からすぐにアクセスができます。そのため発信した情報も鮮度が高いうちに届けやすく、キャンペーンなど期間限定の施策も打ちやすくなるでしょう。・使用頻度の高さスマホユーザーは日に日に増加し、若者から高齢者まで多くの人がスマートフォンを利用しています。アプリをダウンロードすると、スマートフォンのホーム画面に表示され、目にする頻度が格段に増加します。アイコンのバッジ自体が校友会の広告の役割を果たし、校友会の活性化に繋がります。以上のことから、校友会アプリは既に校友会サービスを利用している、または校友会を認知している卒業生のリピート率を上げることが目的であるのに対して、WEBサイトは新規で卒業生の認知獲得を得ることが目的となります。それぞれメリット、デメリットや目的が異なるため、特性を活かしてターゲットに合わせた提供が必要です。1-2. 校友会アプリの主な機能次に、校友会アプリならではの機能を紹介していきます。・プッシュ通知大学・校友会からの最新ニュースやアップデートをリアルタイムで卒業生へ送ることができ、卒業生は母校の活動や動向を常に把握することができます。イベントや寄付の案内、卒業生インタビューなど、校友会からの情報は多岐にわたるので、それらをひとつのアプリの中で見ることができるのは非常に便利です。・会員登録機能卒業生専用の特典やサービス(例:図書館の利用、スポーツ施設の割引など)に関する情報を提供します。アプリダウンロード時に卒業生の認証手続きを行うことで、そのまま会員証の役割として校友会アプリが活躍します。それまで卒業生一人ひとりにカードを発行していた大学が、アプリに切り替えたことでコストを削減した事例もあります。・アプリ内課金アプリ内課金が活用できるという特徴もあります。例えば、有料の校友会プレミアム会員への入会権や有料のイベントチケット販売、寄付につなげることも可能です。ただし、アプリストアの手数料(例:Apple、Googleともに15〜30%)により、収益が減少する可能性があります。1-3. 課題やデメリットアプリ化することによるメリットを紹介しましたが、次はデメリットについて深掘りしていきます。・ダウンロードしてもらうための施策が必要アプリ化した場合、そのアプリをユーザーのスマホやタブレットにダウンロードするという手間が発生します。通信料やデバイスの容量を気にしているユーザーにとっては、ダウンロードのハードルが高いこともあるでしょう。また、ダウンロードしてもらえた後も、プッシュ通知の承認や個人情報の入力など、利用するまでのプロセスが多ければ多いほど、面倒だと思われかねません。Repro株式会社の調査では、15~24歳では60%がアプリのプッシュ通知を「許可しない」を選ぶことが多いと回答したというデータがあります。参考:若者、特にZ世代のプッシュ通知拒否傾向が顕著 Reproが「アプリプッシュ通知に関するユーザーインサイト調査」の結果を発表また、株式会社アイリッジの調査結果によると、62%がダウンロード後7日以内のアンインストール経験ありと回答したというデータがあります。参考:回答者の62%がダウンロード後7日以内にアプリを削除した経験あり。アプリストア利用実態調査結果を公表 株式会社アイリッジ・ユーザーエンゲージメントの確保アプリのダウンロードに成功しても、卒業生が校友会アプリを定期的に利用するよう促すのは難しいことがあります。卒業後に忙しくなり、アプリを開かないユーザーが多い場合、エンゲージメントが低下してしまいます。・過剰な通知アプリにすることでユーザーに対して簡単に情報発信ができるようになった反面、通知が多すぎるとユーザーが煩わしく感じ、アプリを無効にしたり削除したりする原因となることがあります。そのため、適切な頻度での通知が求められます。・プライバシーとセキュリティユーザーの個人情報が含まれるため、データの保護が重要です。プライバシーの侵害やデータ漏洩のリスクを管理する必要があります。・コンテンツの更新と管理卒業生のニーズは多様であり、すべてのニーズを満たすことは難しいです。異なる年代や業界の卒業生に対して、適切なコンテンツや機能を提供する必要があり、それに伴い、継続的なコンテンツの更新が求められます。ニュース、イベント情報、求人情報などを常に最新に保つためにリソースが必要です。・技術的な問題アプリのバグや技術的な問題が発生したり、ユーザーの個人情報の保護など、アプリの開発、運営、保守には費用がかかります。これらの問題を迅速に解決するためのサポート体制が必要であり、特に中小規模の大学や専門学校にとっては、コストが大きな負担となる場合があります。2. 導入大学と各特徴や機能諸外国に比べ、日本では校友会アプリはあまり普及していません。その中でも、公式にアプリをリリースしている日本の大学・校友会を紹介していきます。2-2. 法政大学校友会公式アプリ法政大学 校友会 公式アプリ - App Store法政大学 校友会 公式アプリ - Google Playまずは、法政大学の校友会公式アプリです。このアプリは日本でも数少ない校友会が公式にリリースしているアプリです。卒業後も活かせる校友会ネットワークを活性化するためにつくられ、主な機能は大きく分けて2つあります。1つ目は会員証の電子化です。スマートフォンであれば基本的に常時持ち歩くため、従来のプラスティック製の会員証より便利になるという狙いがあるそうです。2つ目は情報発信です。校友会のホームページと同じコンテンツをよりスマートフォンで見やすくし、使いやすいものにしているそうです。2-3. 実践女子大学実践女子大学アプリ - App Store実践女子大学アプリ - Google Play実践女子大学のアプリの特徴は、ユーザーが登録する情報によって、アプリ内で表示される情報が変わることです。具体的には、「入学予定者」「在校生」「卒業生」の3つから自身のステータスを選択し、それに応じてアプリ内の仕様が変わります。「入学予定者」を選択すれば、学科紹介などを手軽に見ることができます。「卒業生」を選択すれば、卒業後に必要となる証明書の発効を申請できたり、卒業後のキャリア支援に関する情報が受け取れたりと、ニーズに合わせた機能が搭載されています。アプリ化の大きな課題に、ダウンロードのハードルの高さがありますが、入学前からダウンロードをするきっかけがあることは非常に効果的と考えられます。2-4. 金城学院金城学院 - 在学中~卒業後も使える公式アプリ - App Store金城学院 - 在学中~卒業後も使える公式アプリ - Google Play金城学院のアプリの特徴は、情報が充実しているところです。金城学院は幼稚園から大学までの教育機関があり、在学生や卒業生、保護者が求めている多くの情報を提供しています。また、学校側がInstagramやYouTubeなどのSNSによる情報発信に力を入れており、アプリ内からそれらのSNSへのアクセスがしやすく、アプリがSNSの認知に大きく寄与してるといえるでしょう。3. 海外の事例海外の校友会アプリは日本と違って、情報発信ではなく、卒業生同士のネットワークやコミュニティ作りに重きが置かれている傾向があります。それでは、世界的に有名な大学の事例を紹介していきましょう。3-1. ハーバード大学Harvard Alumni Entrepreneurs - App StoreHarvard Alumni Entrepreneurs - Google Playハーバード大学の校友会アプリ「Harvard Alumni」は、卒業生のネットワーキングを強化するための高度な機能を搭載しています。このアプリは、卒業生が簡単にイベントに参加したり、母校の最新ニュースを受け取ったり、求人情報を閲覧したりすることを可能にしています。特に、ハーバード大学の豊富なリソースとグローバルネットワークを活用したキャリア支援機能が充実しており、卒業生同士のメンタリングプログラムも人気です。3-2. オックスフォード大学Oxford Network - Google Playオックスフォード大学の校友会アプリ「Oxford Network」は、卒業生が世界中でつながることを可能にしています。このアプリは、ユーザーが興味のある分野や地域のイベントに簡単に参加できるようになっており、地元の同窓生グループを発見する機能も備えています。オックスフォード大学の卒業生ネットワークは非常に強力で、特に学術的なコラボレーションや研究機会の提供が特徴です。3-3. スタンフォード大学Alumni - Stanford Univ. - App StoreAlumni - Stanford Univ. - Google Playスタンフォード大学の「Alumni - Stanford Univ.」アプリは、テクノロジーとイノベーションを活用して、卒業生のネットワーキングとキャリア支援を強化しています。スタンフォード大学はシリコンバレーに位置していることもあり、特にテクノロジー業界でのキャリアアップを支援する機能が充実しています。ユーザーは最新の技術動向や業界ニュースをリアルタイムで受け取ることができ、スタートアップやベンチャー企業との連携も盛んです。3-4. シドニー大学Sydney Uni - App StoreSydney Uni - Google Playシドニー大学の校友会アプリ「Sydney Uni Alumni」は、卒業生の地域社会への貢献を促進するための機能が充実しています。このアプリは、卒業生が地域のボランティア活動や社会貢献プロジェクトに参加するための情報を提供し、コミュニティの強化を図っています。また、シドニー大学の卒業生ネットワークを活用し、キャリア支援やプロフェッショナルなネットワーキングの機会を提供します。4. 校友会アプリの新たな可能性校友会アプリの意義や、アプリを導入している他大学の事例を紹介してきました。校友会の活性化を図るために、アプリを導入したいと思っている担当者の方も多いでしょう。しかしながら、先述の通り、アプリをダウンロードするハードルが高いデメリットやエンゲージメントを確保するのが難しいという課題も存在します。そこで、この章では、アプリとWEBサイトの両方の良さを取り入れた新しい選択肢を提供します。4-1. PWAとはPWAとは、Progressive Web Appsの略称で、既存のWEBサイトやコンテンツを使用して疑似アプリを作成する技術のことを指します。2023年からiOSへのプッシュ通知も可能となった比較的新しい技術です。PWAは一般的なアプリではなくあくまでも疑似アプリのため、ユーザーがデバイスにダウンロードする必要がありません。また、アプリの運営者側はアプリストアの審査を通す必要がないため、比較的短期間かつ低コストで開発が可能です。既にある校友会WEBサイトをPWAによりアプリ化することも可能です。まさにアプリとWEBサイトの良いところを取り入れた開発手法です。4-2. PWAの機能PWAでは、「プッシュ通知」「オフラインでの動作」「ホーム画面へのアイコンの追加」などの機能があり、一般的なアプリとほとんど変わりません。むしろアプリよりも動作が速いことも多く、顧客体験の質の向上やSEO対策(検索画面で上位表示させるための対策)にもつながります。ですが、PWAで利用できる機能はブラウザに依存してしまうため、利用ブラウザによって挙動が異なるということが起こり得ます。次節では、PWA技術を用いた、校友会アプリの代わりを担うことのできる『CHIMER』というサービスをご紹介します。4-3. アラムナイプラットフォーム「CHIMER」3章で紹介した通り、海外では大学の卒業生間のネットワーキングが充実しており、日本でも数年後には、ほとんどの大学でアラムナイプラットフォームが導入されると予測しています。これは、卒業生へのマーケティング手法がコミュニティの時代へと変わったことを意味しています。卒業生一人ひとりのニーズや帰属意識に合わせたコミュニティの存在が、卒業生の母校へのエンゲージメントを高めます。CHIMERは卒業生ネットワークを活性化させる為のオールインワンプラットフォームです。学校の公式SNSのような卒業生や在学生が交流できるプラットフォームと名簿・コミュニティを管理する組織管理システムが一体となっています。そのため、コミュニティを構築してトピック内で交流したり、在学生・卒業生に効果的な発信が可能です。5. おわりに校友会アプリは、卒業生と母校のつながりを強化するための強力なツールです。日本国内では、法政大学、実践女子大学、金城学院などが導入しており、それぞれの大学が独自の特徴や機能を提供しています。また、海外の有名大学でも活用されており、グローバルなネットワーキングやキャリア支援の強化に寄与しています。これからも校友会アプリは、卒業生のニーズに応じて進化し続け、卒業生ネットワークの活性化に貢献していくことでしょう。