前回の大学寄付金施策についての記事では大学独自で行われている「ふるさと納税型寄付金」をご紹介しましたが、今回の記事では地方自治体 (以下、自治体) と大学が連携して行われるふるさと納税型寄付金を解説します。大学独自で行うふるさと納税型寄付金について解説した記事はこちら ↓>大学独自で行うふるさと納税型大学寄付金を解説! 効果や導入事例も紹介この制度では、大学と都道府県ないし市区町村といった自治体との連携を基本とし、返礼品の有無などさまざまな形があります。自治体と大学との連携に視点を置き、ふるさと納税型寄付金の制度やメリットについて、導入事例も交えながらご紹介します。 <目次>1. 大学における収入と寄付金企業の会計とは異なり、学校法人会計では営利を基準にするのではなく毎年度納付される学費 (納付金) や補助金、寄付金、手数料収入、資産運用・事業収入などを単年度の収入としてやりくりをすることになります。私立大学を例にとると、収入のうち学生からの納付金が70~80%を占め、国等からの補助金がおおよそ10%、寄付金、手数料 (主に受験料収入)、資産運用・事業収入がそれぞれ2~3%程度となり、まだまだ寄付金は少ないのが現状です。収入増を考える際、学生からの納付金や寄付金は浄財として捉え、安易な学費の値上げは、学生やその父母の経済的な状況、さらに今回のようなコロナ禍を考えると適切な施策とはいえません。むしろ、大学は自らの努力によって学費は値下げの方向に向かうことも将来的な大学運営における戦略の1つとも考えられます。現在、このような状況で各大学とも注目しているのが、寄付金をいかに増やしていくかという点です。校友や企業とのネットワークを深め、さらにブランディングを高めることにより大学を高価値な存在として社会にアピールし、教育研究の成果を校友や社会に還元することで支援としての寄付金を集めることが持続していく大学として重要となります。2. 地方自治体と大学が連携したふるさと納税型寄付金とはふるさと納税型寄付金は、ふるさと納税という制度に則り寄付金額に対する税制上の優遇や返礼品 (リターン) がある制度ですが、今回の重要なポイントとしては自治体と大学が連携している点が挙げられます。自治体と大学には、それぞれに施策や制度に対する指標や思惑ともいえるような意図が存在すると考えられますが、両者が目指す目的 (地方の活性化や受験生の集客など) を共有することで双方の協力体制や親和性が生まれ、制度にとって大きなメリットになると考えられます。 2-1. 制度の特徴ふるさと納税の制度に則した寄付金となりますが、自治体と大学が連携し、自治体においては地方の活性化、大学においては教育研究環境の整備が基本的なスタンスとしてあり、それぞれの目的に対して活用されます。大学独自でなされる大学版ふるさと納税型寄付金においても特色あるさまざまな返礼品が揃えられていますが、自治体と連携したふるさと納税型寄付金においても地方の特産物をはじめ、魅力ある品物が準備されています。自治体と連携したふるさと納税型寄付金の場合、返礼品を設定していないことも多く、後ほどご紹介する事例にて詳しくご紹介します。2-2. 寄付金に対する返礼品 (リターン) の内容について寄付金に対する返礼品は、寄付をする側にとって魅力であり楽しみの1つといえますが、どのような品物やサービスが設定されているのでしょうか。返礼品については、自治体の特産物を前面に押し出した品物を設定している場合が多く見受けられます。肉、魚介類、米・パン、野菜類、果物類と多彩で、旅行関係やイベントチケットなど、豊富な品物やサービスが準備されています。また、大学の施設が利用できるサービスや大学院の講義が受講できるなど、大学との連携が活かされた特色ある返礼品にも注目です。2-3. 地方自治体と連携するメリット自治体においては、大学のブランドを巻き込むことで「まちおこし」や地方の活性化を狙いとし、大学生という若者が集まることでまちに活気が溢れることや経済的な波及効果を見込んでいます。また、地方の特産物を返礼品として届けることで、自治体 (まち) のアピールにもなるという利点があります。一方大学においては、寄付金により教育研究環境の整備を充実させることができ、教員や学生の大学における研究や課外活動に対してインセンティブを高めることができます。また、制度を通じて大学の教育研究内容を自治体に知らしめることができ、大学のブランディングにも効果が期待できます。さらに、魅力ある大学を広報展開することで、受験生の獲得にも繋がる入試に対する施策を企画、打ち立てることができるというメリットもあります。3. 地方自治体との調整において留意すべき点大学において寄付金を所管する部課として、募金課や校友課などがありますが、寄付金を集めるに際し学内での議論や綿密な調整を経て方向性を決めることが多いと考えられます。大学の設立、教学の理念に沿った教育研究を推進する点が主たる目的となり、自治体との調整においては、こうした大学の思いを誠実に伝える必要があります。また、自治体側ではまちづくりや地方の活性化を推進する部局が所管していることも多く、自治体独自の施策や方向性を展開する意向があり、自治体と大学側の十分な擦り合わせを行うことでふるさと納税型寄付金の制度化を実現できる可能性が高いです。双方の事務方レベルの調整だけでなく、例えば知事や市長など自治体の長と学長が懇談できるような場を設け、意見交換をする中で自治体と連携したふるさと納税型寄付金の制度を具現化し展開することもできるのではないでしょうか。さらに意見交換の内容をプレスリリースや双方のサイトから情報発信し、社会への提言として広報展開することで、自治体・大学相互のブランディングにも繋げることができます。双方の調整は、方向性や考え方の違いなども若干あると想定できますが、大学側にとっては学内でまとめ上げた思いを丁寧に伝えると同時に自治体側の思いや意向にも誠実に耳を傾ける必要があります。ただ話すだけ話したでは、双方の歩み寄りや実のある制度にまで構築することは困難だと考えられます。4. 地方自治体と大学との連携によるふるさと納税型寄付金の導入事例自治体と大学との連携によるふるさと納税型寄付金について制度やメリットなどを解説しましたが、実際に導入している事例についてご紹介します。ふるさと納税型寄付における税制上の優遇については、いずれの事例においても同じです。寄付の目的や寄付金が使われる用途、寄付に対する「お礼の品」である返礼品において、ほかの取り組みとの差別化が図られており、特色を見出すことができます。今回、返礼品の有無で事例を区別しご紹介します。4-1. 返礼品を設定している事例山梨大学と甲府市返礼品:「山梨大学ワイン」または飲むヨーグルトやスカーフ、煮貝等 (2万円以上の寄付をされた方に対して)甲府市と山梨大学の包括連携協定に基づき、留学生の受け入れなどを支援し甲府市の国際交流を推進することが目的です。名古屋商科大学と愛知県日進市返礼品:社会人のためのビジネススクールMBA (経営学修士) 講義受講券 1科目週末(土日2日間)で1科目が完結するMBA単科プログラムをオンラインでの遠隔授業(双方向ライブ形式)にて提供。※現在は受付を停止岩手大学と釜石市返礼品:特産品カタログより海産物、調味料・瓶・缶、米類・麺類・惣菜、嗜好品、洋菓子・和菓子、工業製品、工芸品、観光・情報より選択「釜石市と岩手大学釜石キャンパスとの連携推進」制度を設け、これに基づき寄付金の使用目的を岩手大学の教育研究活動の支援としています。前橋工科大学と前橋市返礼品:寄付金額に応じ肉類、果物類、野菜類、菓子、雑貨・日用品、美容など300種類以上寄付金は、「前橋工科大学 未来へつなごうプロジェクト」における「学生支援」「国際交流」「地域貢献」などをテーマとし、施設整備や公開講座の充実など学生、地域住民、同窓生の資源として活用されます。福知山公立大学と福知山市返礼品:福知山市の特産品の中から1点を贈呈(肉類、魚介・海産物、米類、果物類、野菜類、菓子・スイーツ、惣菜・加工品、雑貨・日用品、など800種類)寄付金は、福知山公立大学の教育研究環境の整備や教員や学生が実施する研究活動、奨学金事業に活用されます。大阪大学と箕面市返礼品:酒、スイーツ、文房具、化粧品、食器など寄附金の使途を指定することで、その寄附金が大阪大学箕面新キャンパスの周辺整備に活用されます。大阪市立大学と大阪市返礼品:大阪市立ミュージアム御招待証 (1万円以上の寄付をした大阪市外在住の個人)大阪市への寄付金において、人材育成支援や施設整備事業などに活用することを目的としています。返礼品として「大阪市立ミュージアム御招待証」が贈呈され、大阪市の美術館や博物館など9ヶ所のミュージアムに入場(5回分)することができます。4-2. 返礼品を設定していない事例早稲田大学と東京都中央区東京都中央区に所在する団体の1つとして早稲田大学を支援する制度となります。寄付金は7割を上限として大学に交付され、エクステンションセンターや社会人教育事業に活用されます。大阪府立大学と大阪府寄付金は、施設整備や学生クラブの機材整備、学生の海外派遣、奨学金などに活用されます。兵庫県立大学と兵庫県寄付金は、教育の充実、学術研究の奨励、社会貢献活動の推進、修学援助など、学生支援・教育研究施設の整備・円滑な法人運営・国際交流の推進・グローバルビジネスコース留学生の支援に活用されています。北九州市立大学、九州工業大学、九州国際大学、西日本工業大学と北九州市寄付金は、北九州市内の企業の競争力強化と人材確保に貢献する取り組みを推進していくために活用されています。5. 校友と寄付金 ~大学経営というマーケティングの視点持続していく大学を将来的な運営や展望として、経営というマーケティングの視点から大学の収入を考えると、既存の寄付金施策とは別に大学独自の施策を打ち出すことが極めて重要といえます。その1つの選択肢として自治体と連携したふるさと納税型寄付金が挙げられますが、大学の教育理念に通じる明確な教育研究における内容や方向性、構想を明示し、自治体と連携した施策を展開していくことが必要です。また、学生からの納付金や国からの補助金といった固定的な収入とは別に、校友だけでなくふるさと納税利用者も新しいステークホルダーとして大学をアピールすることで、将来的な安定収入へと繋げることができるのではと考えられます。このような点からも校友や自治体を十分に意識し、どのように大学の施策に巻き込んでいくのか、学内での十分な議論が求められることになるでしょう。6. おわりに自治体と大学の連携によるふるさと納税型寄付金について事例とともにご紹介しましたが、持続していく大学とその将来像の策定に際して、寄付金や取り巻く環境を調査し検討することは極めて重要といえます。校友とのネットワーク構築とも平行して検討するうえで、寄付金戦略を策定する一助となれば幸いです。Alumni Labs (アラムナイ ラボ) では、寄付集めを最大化する為の様々なサポートを提供しております。適切な名簿管理や卒業生の活性化、イベント企画など、ぜひ下記からお気軽にご相談ください。Alumni Labs 相談・問い合わせフォーム