弊社のブログでも取り扱ったふるさと納税型寄付金ですが、魅力的でも導入に躊躇してしまう大学は多いのではないでしょうか。そんな中、2020年9月から「ふるさと桜募金」という名前でふるさと納税型寄付金を導入された、桜美林学園 総合企画部募金室長の藤江さまにお話をうかがいました。 プロフィール桜美林学園 総合企画部募金室長 (2021年取材当時) 藤江 琢司さま企業研修会社で社長、体育会学生の人材紹介会社で事業責任者という経歴から、2019年7月に学校法人桜美林学園に入職。まずは、ふるさと桜募金について教えてください。藤江さま自治体のふるさと納税をヒントにした、寄付者が返礼品を選ぶことができる寄付方法です。ふるさと納税と同じように寄付金控除も受けられますし、返礼品は卒業生の手掛けるものやキャンパスのある地域の特産品など、学園にゆかりあるものを揃えています。 ふるさと桜募金を始めた目的や経緯を教えていただけますでしょうか?藤江さま大学の収入は大きく分けて学費、補助金、受験料収入、寄付金の4つですが、大学への補助金削減や少子化等の流れの中で、大学の努力で伸ばせるのは寄付金しかありません。そのため、本学でも募金活動を強化する必要性を感じていました。寄付金には「法人」からのものと「個人」からのものがありますが、企業(法人)から継続的に寄付を受け続けるのは難しいといわれていますし、寄付文化の定着しているアメリカを含め、社会全体では個人からの寄付にシフトしていく大きな流れがあります。藤江さま例えるなら、マイクロソフトという企業から寄付を受けるのではなく、ビル・ゲイツという個人から寄付を受ける、ということですね。日本も確実にその流れになっていて、個人が寄付しやすいように税制も変わっています。ところが本学にはもともと、募金活動を主幹する部署がなく、それまで積極的に募金活動を行っていなかったため、卒業生の寄付に対する意識や関心は他大学と比べ低かったかもしれません。でも、意識のどこかにきっと「母校に寄付をしなければいけないのではないか?」という思いがあるはず。そこで、返礼品を選ぶ楽しさを与えることで、卒業生の背中をほんの少し押してあげられるのではないかと思ったのです。 ふるさと桜募金の導入に際した学内の動きなどを教えてください。藤江さまふるさと納税スタイルの募金活動は、「ほかの大学はどこもやっていないから」という理由もあってか、あまり取り組む大学がありません。本学は新しい取り組みに対する柔軟性を持っていたので、そこまで苦労しませんでした。他大学の取り組みが進んでいないのは、実際のオペレーションが大変だと思われていることも大きいかもしれません。私も当初はそう思っていたので、オペレーションは全てアウトソーシングするつもりでいました。ところが、学内事情により全てを自分でやることに…。もちろん、各地を巡って返礼品の交渉をしたり、サイトの立ち上げなども全てやらなければならないのは大変でしたが、やってみたらできてしまった (笑)。その間、地道な努力を惜しまず頑張ってくれたスタッフには感謝しています。 ふるさと納税のスタイルを採用することに対しても、所轄官庁への申請等は必要ありません。そもそも自治体のふるさと納税も自治体への寄付行為で、制度そのものは以前からありましたし、なかには返礼品をお返ししている自治体もあったでしょう。自治体への寄付をより活発にするため、税控除の仕組みと返礼品を選べる仕組みをつくり、ポータルサイトと手を組んだ。自治体版と大学版の制度上の違いがあるとすれば、税控除の範囲が大学版の方がやや狭いことと、自治体版は総務省が旗を振って取り組んでいることでしょうか。 ふるさと桜募金のリリースまでの流れはどのようなものでしたか?藤江さま一昨年8月頃から構想し、学内で承認をとったのが昨年1月頃でした。その後、返礼品の交渉を始めたのですが、大変だったのはそこからで、専用サイトの立ち上げや返礼品の写真撮影など、細かい作業がとにかく多かったです。スタッフが本当によく頑張ってくれました。 ふるさと桜募金の認知度を広げるために今までどのような告知方法を実施してきましたか?藤江さま大学広報誌への掲載、カタログの発送、ホームカミングデーでの告知、取材対応などです。自治体のふるさと納税はほとんどがネットによるものですから、私たちもネットによる申し込みを想定していました。おのずとターゲットは年配の方より、ネットが使えて経済的なゆとりも生まれつつある40~50代の層になります。当初はその層からの寄付が多かったので、狙いは当たっていたと思います。ただ、60~70代の方から「インターネットが使えないからなんとかしてほしい」という声が寄せられたのをきっかけに、紙のカタログを作りました。それを主に60代以上の卒業生を中心に配布したところ、寄付件数が大きく増えたんです。紙媒体は印刷費や発送費、開封率などの問題がありますが、少なくともふるさと桜募金については正解だったかもしれません。 好評だった返礼品はありますか?藤江さま意外なことに、全体の3分の1を占めるほど1番人気なのは、桜美林オリジナルグッズで、特に60代以上の方に人気のようです。個人的な考えですが、本学はこれまであまりグッズを作っていなかったので、ロイヤルティの高い卒業生には望まれていたのかもしれません。もう1つ興味深かったのは、町田、伊豆、長野の返礼品コレクションの中で、長野のお酒やハム、伊豆の干物などを抑えて1番人気だったのが、本学のメインキャンパスがある町田の農産物だったことです。返礼品に魅力があることはもちろんですが、「キャンパスのある町田市を応援したい」という卒業生も一定数いるのかもしれません。そのような気持ちが返礼品選びに影響しているとすれば、学園職員として嬉しく思います。<桜美林オリジナルグッズ><人気だった町田コレクションの返礼品> 自治体と連携してふるさと納税型寄付金を展開している大学は多いですが、桜美林学園独自でふるさと納税型寄付金を導入しようと思った理由はありますか?藤江さまシンプルに、自治体と連携することに大きなメリットがあるとは思えなかったからです。自治体のふるさと納税は広く社会に向けていますが、私たちは主に本学の卒業生に向けているので、そもそもマーケットが違います。また、このふるさと桜募金を通じて、卒業生との新しいコミュニティをつくりたいという目的もあり、自治体との連携は視野に入れていませんでした。 ふるさと桜募金を通した「新しいコミュニティ」とはどういったものでしょう?藤江さままず、卒業生に返礼品を提供していただくことで、学園と卒業生とのコミュニケーションが生まれます。多くの卒業生が返礼品を提供してくれるようになれば、そのコミュニティは大きくなる。そうすると、サイトやカタログなどを見た卒業生の間での話題作りにもなり、「知人の返礼品に寄付してあげよう」という動きも生まれるかもしれません。そうやって、大学をハブとした新しい繋がりができていくことを目指しています。今後実施してみたい返礼品はありますか?藤江さまとにかく多くの返礼品を揃えたいと思っています。そうすれば、本学が寄付を集めれば集めるほど、多くの卒業生やキャンパスのある地域に貢献することができます。そうやって卒業生や地域に貢献することも、ふるさと桜募金の大きなミッションだと思っているので、ぜひ返礼品は増やしていきたいです。また、できれば返礼品として、大学の講義や研究に参加してもらうことも検討したいと思っています。「昔の恩師の授業にもう一度出てみたい」とか、「仕事で関わっている分野の研究に参加したい」というニーズは、卒業生の間に必ずあると思っています。すでに寄付金の返礼品として取り組んでいる大学もあるようなので、ぜひ実現したいですね。 ふるさと桜募金を導入した成果はどのようなものでしたか?藤江さままだ始めたばかりですが、大きな手応えを感じています。卒業生に限っていえば、件数ベースでは昨年1年間の総件数の約半分、金額ベースでは、総額の約3分の1が集まりました。これだけを見れば、結果は出ているといえます。また、さまざまなところで話題にしていただいているのか、メディアからの取材依頼もいくつかありました。ふるさと桜募金の今後の展望について教えてください。藤江さま本学がふるさと桜募金をより拡充させていくことはもちろんですが、この仕組みには大きな可能性があると思っているので、できれば多くの他大学にもこの仕組みを導入してほしいですね。自治体のふるさと納税を通じて、今では年間で約5,000億円が自治体に寄付されていますが、この制度が始まる前、どれくらいの方が自治体に寄付しようと思っていたでしょうか。つまり、この制度によって新しく5,000億円のマーケットができたことになります。なぜこのようなことができたかといえば、全国の自治体が一斉に始めたからではないでしょうか。選ぶ楽しさでどんどん広がり、今では自治体に寄付する文化が定着しました。私は、大学でも同じようなことが起こり得ると思っています。多くの大学が取り組み、大学版ふるさと納税のポータルサイトなどが立ち上がり、大学への寄付が一般的な文化になる。大学には、卒業生や保護者など、母校に対して思い入れのあるステークホルダーが多く存在するので、自治体よりも寄付が集まりやすいかもしれません。また、その取り組みを通じて新たなコミュニティができるのも大学ならではだと思います。この仕組みを通じて、そんな社会が実現されたらとても嬉しいですね。 文章:ライター 上田正暁