近年、卒業生領域の重要性が学校業界に浸透してきており、その中で、校友領域においてもデジタル化・DX化が求められてきています。しかし、デジタルを取り入れて校友会活動を進めていく中で「高齢層は受け入れてくれるのか」「高齢層にとって理想的な校友会活動とは何か」といったことに頭を悩ます担当者も多いのではないでしょうか?そこで本記事では、大学・大学院を卒業した高齢層を対象に「デジタル化を不便に感じているのか」「どんな卒業生サービスが求められているのか」などに関するアンケートを実施しました。また、アンケート結果をもとに「高齢層に求められる卒業生サービスとは何か」「若手向けの卒業生サービスとどのようにバランスを取るべきか」などについて考察しましたので、卒業生施策や寄付募集を担当される皆さまは、ぜひ業務効率化や企画立案にお役立てください。<目次>1. 調査した背景1-1. 高齢層に対する校友施策は、まだポテンシャルがある大学における校友会活動には、幅広い年代の卒業生が参加していますが、寄付率やイベント参加率は、お金や時間に余裕のある高齢層の方が高い傾向があります。一方で大学卒業後、完全に疎遠になっている高齢層にとって、校友会活動に初めて参加するハードルは高く、またニーズを掴むことも容易ではありません。昨今、大学や校友会は、より課題の大きい若手卒業生向けの施策に注力しがちですが、前述したように高齢層の潜在層も忘れてはいけません。むしろ、少ない労力で寄付などを多く集める為には、潜在高齢層の需要掘り起こしは、非常に重要なテーマと言えるでしょう。このような背景から「歳を重ねた卒業生は、どんな卒業生サービスを求めるのか」を調査するに至りました。1-2. 若手向け施策、デジタル化に高齢層が取り残される懸念以前の記事で、20〜50代の卒業生が求める大学情報、卒業生サービスについてアンケートを実施しました。関連記事:卒業生が本当に求める大学の情報・サービスは何か?一般卒業生850人にアンケート実施この記事から、20〜50代の中でも年代によって求める卒業生サービスや適切な情報発信の手段は異なることが明らかになりました。では、60代以上の高齢層ではどうでしょうか?現在、校友領域では若手卒業生向けの施策やデジタル化が活発に行われています。その中で、デジタル化に高齢層は取り残されていないか、高齢層が求めるサービスは実施できているのか、といった懸念が考えられます。そこで今回は、高齢層に焦点を当てたアンケートを実施していきます。2. アンケート概要・結果解説調査集計期間 2023年7月6日~2023年7月10日調査対象 大学または大学院を卒業した50~89歳の男女600名 男性:女性=430:170 50代 200人 (男130、女70) 60代 200人 (男140、女60) 70 ~ 80代 200人 (男160、女40)調査方法 インターネット調査Q1. 大学には卒業生のための組織「校友会(全学同窓会)」が存在することを知っていますか?50代は約70%、60代では約80%、70代以上では約90%の卒業生が校友会の存在について「知っている」という結果が得られました。下記の記事では、20代、30代では半数近くが校友会の存在を知らないという結果が得られており、それと比較すると高齢層の校友会に対する認知度は高いといえます。関連記事:卒業生が本当に求める大学の情報・サービスは何か?一般卒業生850人にアンケート実施校友会の認知度はできる限り高くしていく必要があり、そのためにはうまくデジタルも活用しながら情報発信をしていく必要があるといえます。Q2. 大学は卒業生に母校情報や寄付案内などを発信していますが、受け取りやすい方法は何ですか?この質問から、年齢が上がるほど、紙媒体での情報発信が必要とされていることがわかります。ただ、50代はもちろん、60代卒業生でも約40%が郵送は不要と回答しており、デジタルでの情報発信が受け入れられているといえるでしょう。また、60代と70代以上の両方で、60%以上の方がデジタルでの情報発信を必要としており、紙媒体の情報発信と比べてもデジタルの価値が高くなってきていることがわかります。Q3. 大学卒業後、大学に関する情報でどのようなことを知りたいですか?ニーズが高い情報は「自身が関わっていた学部や部活動の活動状況」「自身が通ったキャンパスや大学の近況」についてです。キャンパスや大学の近況に関しては、70代以上卒業生の約70%が必要としており、非常にニーズの高い情報であることがわかりました。一方で、高齢層にとっては「在学生・卒業生へのインタビュー」はあまり求められていないこともわかりました。昔と現在では大学での活動内容も大きく変化したこともあり、自分と関わりのない方の活動は興味を引く情報ではないといえます。2番目にニーズの高い情報は「卒業生限定で利用できるサービスや特典の紹介」でした。近年、各大学で卒業生限定の割引などの優待サービスが得られるようになっていますが、この施策は若手から高齢層まで幅広い卒業生に求められているといえます。Q4. 大学や校友会に力を入れてほしい卒業生向けサービスは、次のうちどれですか?1. リカレント教育、学び直しの機会の提供2. 図書館、会議室などの大学設備の貸し出し3. 卒業生が経営するお店や飲食店の紹介アンケートの結果、特にニーズの高かったサービスは上記の3つでした。その中でも「リカレント教育」は、年代間でニーズに大きな違いが見られます。実際に下記の記事によると、20代の卒業生の間ではリカレント教育のニーズがそこまで高くない一方で、30〜70代以上では高くなっています。具体的には、リカレント教育は20代の得票数は7番目となっていますが、30〜40代の卒業生には3番目に求められているという結果が出ています。50代ではなんと2番目に必要とされており、社会変化に応じて新しいスキルを獲得したいと考えるビジネスマンが多いようです。関連記事:卒業生が本当に求める大学の情報・サービスは何か?一般卒業生850人にアンケート実施60代や70代以上の卒業生の間でも、依然として3番目に必要とされているサービスであることから、リカレント教育の充実化は重要だといえるでしょう。また「卒業生が経営するお店、飲食店の紹介」は特に70代以上の高齢層に求められているようです。大学と高齢層との繋がりが希薄になってきている現状において、飲食店や小売店など、お店を通じた関係構築を考えてみてはいかがでしょうか。Q5. どのような卒業生向けイベントに参加したいと思いますか?ここでニーズが高かった項目は1. 日常生活において役に立つ内容のセミナー2. 活躍する卒業生(著名人、芸能人)のトークイベント3. 同窓会総会(同窓会組織からの発表会、講演など)4. ホームカミングデー上記の4つとなりました。特に人気が高かったのは「日常生活において役に立つ内容のセミナー」あり、50代から70代以上の方まで幅広く支持を得ています。前回のアンケートを踏まえると、若い卒業生ほどビジネスに関連したイベントの人気が高く、歳を重ねるほど「日常」がテーマのイベントが人気が高いという興味深い結果となりました。関連記事:卒業生が本当に求める大学の情報・サービスは何か?一般卒業生850人にアンケート実施また、ホームカミングデーに参加したいと思う卒業生は、70代以上で特に多くなっています。アフターコロナに開催するホームカミングデーでは、従来のイベントに加えて、高齢層の卒業生も楽しめるような工夫があるとより良いのではないでしょうか。Q6. 母校に寄付をしたことがありますか?母校に寄付をしたことがある人の割合は、高齢層ほど高くなる傾向がありました。特に70代以上では約半数が寄付の経験があり、複数回寄付をしている方も200人中60人と、非常に高い割合となっています。「以前は何度か寄付したが、最近はしていない」方も、60代・70代以上の卒業生で特に多いです。このことから、高齢層の卒業生とうまく関係を築き直すことができれば、寄付獲得に繋がるといえるでしょう。逆に、50代の卒業生では寄付を1度もしたことがない割合が比較的高いことが明らかになりました。これから寄付率をあげていくために、少額からでも手軽に寄付できるような仕組みが必要かもしれません。Q7. 大学が寄付を増やすために何が重要だと思いますか?この調査から、大学が寄付を増やすためには「寄付の使途を明確にする」ことが最も重要だといえるでしょう。実際に50〜70代以上の600人のうち半数近くがそのように回答しており、特に70代以上の方のでは約55%がそのように感じているようです。また、1. 応援したいと思える企画を立ち上げる2. 少額からの寄付を可能にするこの2つも支持されていることから、歳を重ねるにつれて返礼品などの見返りでなく「純粋に活動を応援したい」という思いが強くなっているといえます。3. 考察「高齢層に求められる卒業生サービスとは?」ここからは、アンケート結果をもとに、高齢層に本当に求められている卒業生サービスとは何か、また、デジタル化や若手卒業生向けの施策とどうバランスをとっていくべきなのかについて考察していきます。3-1. 高齢層に対しても、デジタル施策を進めていくべき高齢層への情報発信やイベントにおいて「デジタル化が受け入れられるのか」という問題で常に頭を悩ませてきたのではないでしょうか。今回のアンケートを通して、60〜80代の高齢層の約60%がデジタルでの情報発信を必要としていることがわかりました。確かに、約30%の高齢層はいまだにデジタルに抵抗感を持っているようです。しかし、高齢層にもデジタルが浸透し続けている現状を踏まえると、校友領域においてもより一層デジタル化を進めていく価値はあるといえます。3-2. 若手向け施策とどうバランスをとって進めていくべきか高齢層への情報発信やイベントにおいてもう1つの問題は「若手向けの施策とのバランス」をどのようにとっていくかでしょう。実際に、卒業生が求める情報やイベントの種類は年代によって異なっているため、細かいニーズを踏まえて、卒業生施策の実施や校友会運営をしていく必要があります。例えば、会報誌に関しては、よりニーズを踏まえた施策を検討することができるでしょう。これまでは、高齢層に対しては紙媒体の会報誌を郵送し、若手層に対してはSNSやWEBを活用してデジタルの会報誌を届けるという単純な考え方でした。しかし、今回のアンケートを通して高齢層の多くがデジタルを好むことがわかりました。これを踏まえ、これからの会報誌では基本は費用対効果の高いデジタルを中心とし、紙媒体はより対象を絞って副次的に活用していくのがより適切といえます。そうすることで、全体のコストパフォーマンスを上げ、また次世代に引継ぎやすい体制を構築することができるでしょう。大学が開催するイベントや情報発信がどの年代に求められていることなのかを把握した上で、全体施策と年代ごとの個別施策をバランス良く運営していくことが重要となるでしょう。3-3. 使途の明確化と少額寄付の重要性Q7. 「大学が寄付を増やすために何が必要だと思いますか?」で述べたように、高齢層からの寄付を獲得するためには使途の明確化と少額寄付の仕組みが重要となるでしょう。しかし、校友会運営では予算などの課題があり「使途の明確化」と「少額寄付の仕組み」を実現できている大学はまだまだ多いとはいえません。その中で、この2つにいち早く取り組んでいる大学として桜美林大学を紹介します。桜美林大学では、寄付の使途を部活動や奨学金など細かく分けて設定できるようになっており、またふるさと納税を活用して少額から寄付できる仕組みを実現しています。関連記事:ふるさと桜募金 | 桜美林大学 関連記事:桜美林大学 畑山学長 〜校友会は、大学を支えるコミュニティの柱となる〜この「使途の明確化」「少額寄付」は、寄付を獲得していく上で今後も重要であるといえるでしょう。4. まとめ50〜80代卒業生へのアンケート結果をもとに、大学や校友会に求められている最適な校友会活動について考察していきました。高齢層から寄付をしていただく上では「活動を応援したい」と思ってもらえるような関係構築、そして寄付を通じて活動をサポートできていると思えるような仕組作りが重要であり、使途の明確化などもその手段の1つです。幅広い年代の卒業生と関わっていく中で、それぞれに求められていることを細かく把握し、実行していくことで、校友会の役割はより重要なものになっていきます。今回の記事が、校友領域の活性化の一助となれば幸いです。Alumni Labs (アラムナイラボ) を運営する笑屋株式会社は、校友領域の課題解決を専門で行う企業です。卒業生ネットワークの活性化や寄付金集め、学校ごとの独自調査、イベント企画・運営など、校友領域のことは何でもお気軽にご相談ください。Alumni Labs 相談・問い合わせフォーム※この調査結果はネットアンケートで募った一般人に回答していただいた統計であり、校友会関係者の皆さんがこれまで行ってきた活動を否定するものではありません。あくまでもネットリサーチを行って得られた一統計に過ぎず、卒業生のニーズや校友会に求められていることは各大学ごとに違いがあることを念頭に置いたうえでご覧ください。