プロフィール伊藤 純 教授人間社会学部福祉社会学科 教授キャリア支援部長社会人メンターネットワーク運営委員会専門は生活経営学。昭和女子大学家政学部生活科学科卒業、同大学大学院修士課程修了後、医療機関勤務を経て1999年より昭和女子大学生活科学部に研究助手として着任。翌年専任講師。2003年に昭和女子大学大学院博士課程に社会人入学。2005年9月博士(学術)取得。2019年より大学院福祉社会研究専攻教授。2023年より大学院福祉社会・経営研究科福祉共創マネジメント専攻教授。同大学キャリア支援部長、社会人メンターネットワーク運営委員会委員長、女性文化研究所運営委員、ダイバーシティ推進機構運営委員等。主編著として『ジェンダーで学ぶ生活経済論』、共著『福祉社会における生活・労働・教育』『女性と家族』『女性とキャリアデザイン』ほか。「なりたい自分に出会う」ための社会人メンター制度──昭和女子大学の「社会人メンター制度」の概要と目的を教えてください。本学の「社会人メンター制度」は1対1の個別メンタリングと、グループメンタリングの「メンターカフェ」「メンターフェア」で構成されています。「メンターカフェ」は、学生または「社会人メンターネットワーク運営委員会」という主に教員で構成される組織がテーマを定めて、そのテーマに即したメンターさんにお声掛けし、懇談を行うというものです。「メンターフェア」は特にテーマを定めず、日時の都合が合ったメンターさんに手を挙げていただき、複数名のメンターがメンタリングを実施するという取り組みです。いずれの取り組みも、学生たちがメンターさんのお話を聞いて、自分自身の生き方を探ることを目的としています。コンセプトを一言で表すなら「なりたい自分に出会う」ですね。──「社会人メンター制度」を開始した直接のきっかけはなんだったのでしょうか。※夢を実現する7つの力とは、1. グローバルに生きる力、2. 外国語を使う力、3. ICTを使いこなす力、4. コミュニケーションをとる力、5. 問題を発見し目標を設定する力、6. 一歩踏み出して行動する力、7. 自分を大切にする力(坂東総長が提唱)本学では2011年にキャリア支援に関するシステムを整備し、職業人・社会人としての指針を得るための「キャリアデザイン・ポリシー」を掲げました。この時期に「社会人メンター制度」を始めたり、キャリア科目を必修にしたりと、様々な制度を整えていきました。その背景としてはやはりリーマンショックの影響が大きく、若者たちが就業意欲を持てるように強力な支援を行おうという意図がありました。学生は「社会人メンターネットワーク」を通じて、少し先を歩く人生の先輩に助言者となっていただき、生きていく上でのヒントを得ることができます。親や親戚といった身近な人だけではなかなか得られない、多様な社会人女性のキャリアを知る機会となっています。──学生からは就職活動に際して、どのようなニーズが挙がっていたのでしょうか。「社会に出てやっていけるのだろうか」といった働くことへの漠然とした不安や、「ワークライフバランスなんて言うけれど、本当に実現可能なの?」といった具体的なものまでありましたが、身近な家族・親族からは聞けないようなリアルな部分を知りたいというのが主なニーズでしたね。──登録されているメンターは、どのような属性の方が多いですか。現在、約360名の方々にご登録いただいており、年代のボリュームゾーンは30代から50代となっています。本学の出身者は24%で、ほとんどは他大学のご出身ですね。職種や業種でいうと250種ほどで、フリーランスや公務員としてご活躍されている方など幅広く登録されています。また、20代のメンターさんのなかには学生のときに「社会人メンター制度」を活用し、後輩へのキャリア支援を通して母校に恩返しがしたいと登録してくださっている方も少なくありません。──メンターの選考基準を教えていただけますか。書類と面接を通じて、学生にどのような助言を送っていただけるかで審査しています。具体的なお仕事の体験談に加えて、どんな苦労があったか、そこから何を得たかとか、何を大事にしてきたかとか、パッションを伝えていただける方を重視しています。年齢についてはとくに制限を設けていません。経験を重ねたからこそわかることもありますし、その境地に至ったからこそお話いただけることも大切にしております。──メンターはどのように募集されていますか。大学のWebサイトで、3月と9月の年2回ご案内を出しています。メンターさんからのご紹介の場合でも、この募集期間に応募していただいています。また、広告を出して募集するといったことはありませんが、「光葉同窓会報」という同窓会のおたよりで定期的に呼びかけをしてくださっています。本学の「社会人メンター制度」にまつわる取材記事を読んでご応募いただくこともありますね。──メンターとしての活動期間はどのくらいですか。任期は2年間で、2回まで更新ができますので最長6年間です。──メンターの方々はどういったモチベーションやメリットを感じられて取り組まれているのでしょうか。ほとんどの方は、これまで先輩や周りの人たちに助けていただいた恩返しとして、若い学生に自分の経験を還元したいとお話されます。逆に、周囲の支援が得られず、道を切り開くなかで苦労された方が「若い人に同じ苦労はしてほしくない」とメンターを務めてくださる場合もあります。また、自身のキャリアの棚下ろしとしてメンター活動に関心を持たれる方も多いですね。手厚いキャリア支援が高校・予備校からの信頼に繋がっている──学生とメンターのマッチングの流れについて教えてください。専用のシステムを導入しており、学生がメンター検索サイトからメンターさんに直接チャットを送り、マッチングが成立するとZoomのURLが発行されるという流れになっています。双方が対面でのメンタリングを希望する場合は、大学内のメンタリング専用の部屋を設けていますので、そこで実施することもできます。これまではキャリア支援センターの職員が学生の希望を聞き、そのうえでメンターさんの都合を聞いて……という流れでしたので、早くてもマッチングには10日から2週間が必要でした。システムの導入によって、マッチングにかかる時間は大幅に短縮できています。──対面希望の場合は学内で実施することがルール化されているのですね。個別メンタリングの場面においてプライベートなお話が出てくることが多々ありますので不特定多数の人がいる場ではなく、プライバシーに配慮した環境を提供しています。面談には職員も同席せず、完全に2人きりで実施しています。──メンタリングの内容についても大学側ではチェックをしないのですか。双方にとってメンター制度がより良いものになるよう、メンタリング後にメンターさんと学生それぞれに感想などは書いてもらっています。とくにメンターさんは「フィードバックが欲しい」と仰る方が多く、自分が話したいことがうまく伝わらなかったと感じれば、そのことを事務局経由で伝えてもらうことはあります。──学生はメンターについてどのように検索するのでしょうか。フリーワードによる検索が多いと思います。職業や年齢などのチェック項目から絞っていくやり方もありますので、具体的な目標を持つ学生は職業や年代で絞って検索をしていきますね。メンターさんには登録にあたり、プロフィールとして100~200字程度の文章を作成していただいてます。年代や職業、業界などがわかるようにしつつ、自己紹介をしてもらうイメージです。──「社会人メンター制度」開始後、どのような効果がありましたか。「社会人メンター制度」と直接結びついている成果ではないのですが、本学独自で実施している就業動向調査では、就職後3年以内の離職率が以下です。2020年3月卒 27.5%2019年3月卒 24.1%2018年3月卒 27.0% 令和2年(2020年)厚生労働省調査結果によると32.3%なので、本学は平均より低い結果となっています。これはやはり、在学中に自分がどのように生きていきたいかを思い描き、中長期のビジョンを持って就職活動に臨めた結果であり、少なからず「社会人メンター制度」の効果であると思われます。また、大学通信が実施した「進路指導教諭が評価する大学」のアンケート調査でも、本学は女子大部門で5冠を達成しており、「面倒見が良い」「就職に力を入れている」「入学後、生徒を伸ばしてくれる」といった項目で評価をいただいています。こうした評価も「社会人メンター制度」を含むキャリア支援の成果といえるのではないかと考えています。──最後に、今後の展望についてお話いただけますか。今後の展望としましては、まずメンターさん同士のネットワークの構築を目指しています。メンターさんは現状、メンターとしてのお仕事しか本学との繋がりがなく、機会損失になっていると思っていまして。すでに「社会人メンターの集い」という交流企画や「メンターカフェforメンター」というメンター同士でメンタリングを行う企画があり、経験豊富なメンターさんからメンタリング経験をご共有いただく場を設けています。今後はそれだけでなく、メンターさん同士の異業種交流の場として、昭和女子大学を大事に考えてくださるステークホルダーが緩やかに繋がる環境を整えていきたいと考えています。もうひとつの目標としましては、学生が卒業までに最低でも1回はメンタリングを体験できるような環境作りですね。「社会人メンターネットワーク運営委員会」や「キャリア支援センター」だけが頑張るのではなく、学科ごとにメンターさんをお招きしてイベントを企画するなど、学生たちがメンターさんをより身近に感じられる機会を増やしていきたいと考えています。