本記事は「大学トップに聞く! 校友領域の未来と可能性」と題し、各大学のトップに校友会の価値や重要性について語っていただく連載インタビュー企画です!記念すべき第1弾として取材させていただいたのは、2021年に創立100周年を迎えた桜美林学園・桜美林大学の畑山浩昭学長。畑山学長は日々のSNSによる情報発信にくわえ、在学生や卒業生とも積極的に交流されています。校友会にはできることがまだまだたくさんあり、主体性を発揮することで、大学を取り巻くコミュニティの中心的な存在になり得る、との考えをお持ちです。今回、弊社代表・真田が、畑山学長に校友領域の可能性についてご意見をうかがいました。寄付金や卒業生が集まらないなど、校友会の課題に取り組む方にとって問題解決の糸口となるのではないでしょうか。貴重なお話をお届けします。 桜美林大学学長 畑山 浩昭 (はたやま ひろあき) 氏1962年生まれ。ノースカロライナ大学グリーンズボロ―校大学院博士課程修了(Ph.D)、マサチューセッツ工科大学大学院修士課程修了(MBA)。2006年より教授。専門は文学、経営学。 副学長等を経て、2018年4月、学長に就任。 文部科学省大学設置・学校法人審査会 (大学設置分科会) 委員、公益財団法人大学基準協会常務理事、公益財団法人日本高等教育評価機構評議委員、日本私立大学協会国際交流委員等を務める。 趣味はギター (ブルース、ロック)。変革を続ける桜美林大学 ~デジタルとリアルの学び舎へ真田桜美林学園は2021年に創立100周年を迎え、貴学では「Unique & Sharp」というビジョンを策定されました。畑山学長の考える桜美林大学の展望をお話しいただけますか。畑山学長 (以下、畑山)本学には「キリスト教精神に基づく国際人の育成」という建学の精神があります。新しい状況においてこの理念を具現化するには、これまでのやり方を変える必要があります。そのため長期ビジョン「Unique & Sharp」のコアバリュー (重要な価値観) に、「変革」と「進化」を据えました。ビジョンにある「ユニーク」には、他の大学に追随するのではなく、自分たちの今やるべきことを決めて、しっかり遂行するという意味を含んでいます。一方「シャープ」は、ただ行動するだけでなく機能するものにしよう、行動を尖らせよう、というメッセージです。真田「変革」をコアビジョンにされたのは、コロナ禍における社会の変化に適応する、という趣旨もあるのでしょうか?畑山そうですね。特にデジタル化が急速に進んだことは大きいです。分かりやすい例でいうと、僕は学生時代にバンド活動をしていたのですが、その頃はスタジオで練習して、ライブ会場を決めて、チケットやポスターを作っていました。それでお客さんを集めてライブをしたら終わりだったんですね。ところが今の学生のバンド活動は、曲を作って練習してSNSでキャンペーンをします。チケットをデジタルで配布して、ライブの企画やプロモーション、レビューもする、配信で曲も販売します。ここまでできる理由は、やはりデジタルインフラが整ったためなんです。大学の学びも同じです。以前、学生は教室で授業を受けるだけでしたよね。一方現在の大学は、学生たちの自主的で自発的な学習機会をいかに作っていけるか、がポイントです。すなわち、学生たちができることを活用して、自分たちの物を作る機会を提供する方向へと変わってきています。まさにクリエイティビティですよね。すごく面白いことになっているんですよ。真田なるほど。デジタル化の波を大きなチャンスと捉えていらっしゃるのですね。畑山まだ手探りですけどね。一方でデジタルな環境にばかりいると、必ずリアルに戻っていきます。例えば皆で山へ行ってバーベキューをしたり、川岸でごみ拾いのボランティアをしたり。こうした体験はこれから非常に価値が出てくるでしょう。人間が成長するためには、地域活動での学びや、自然環境と都会の文化の両方に触れたりといったさまざまな体験が必要です。僕はこうした経験や成長の機会を、大学が与えてあげるべきだと考えています。そういう意味で、本学はキャンパスとして抜群のロケーションにあると思いますよ。真田すごく納得感があります。それにそういった経験はすぐに効果がわかるものではなく、評価もされにくいですけれど、教育の本質的な部分ですよね。畑山本当にそう思いますね。校友会が主体的に活動することで得られる新たな価値真田ではここで、校友領域の話に入りたいと思います。寄付金集めや卒業生ネットワークを利用した在学生支援など、徐々に校友会に注目が集まっていますが、畑山学長が校友領域に期待していることはなんでしょうか?畑山校友会が主体性を持って活動することです。真田主体性ですか。どういうことでしょう?畑山これまでは大学が校友会に寄付金などを「お願い」していましたが、それではなかなかうまくいかないんですね。そうではなく、例えば本学の取り組みを挙げると、大学と校友会が同じ目的を共有して、面白いイベントや新しい価値を見いだせるプロジェクトを一緒に立ち上げています。すると、校友会が自主的に「こんなことができます」と企画を作って提案してくれるようになったんですね。そうやって活動に広がりが出てくると、必ず最終的にお金を生み出していくんです。真田大学と校友会がコラボレーションしてプロジェクトを作っていくのですか。例えばどんなことが考えられますか?畑山スポーツなんかは非常に溶け込みやすいですね。卒業生に「頑張っている後輩を一緒に応援しませんか」と呼びかけて、例えば野球部やアメフト部の試合を皆で見に行く。見ているうちに特定のプレイヤーのファンになる人も出てきます。それが最終的にはそのクラブのための寄付金という形でお金が集まってくるんですね。真田目に見える寄付に繋がる。クラウドファンディングみたいなものかもしれないですね。畑山そうですね。あるいは新しいエクステンションの授業をつくるときに、卒業生が先生になって後輩に何かを教えることもできると思うんです。または卒業生同士で教え合うようなプラットフォームを作り、学校が場所やマネジメントを提供して一緒にやっていきましょうとか。真田なるほど。おもしろいですね。畑山お互いにワクワクするような仕掛けをプロジェクト化していくと、卒業生の中に愛校心や強い繋がりが生まれます。そうした土台の価値ができると、その上には必ず寄付金など金銭的なものが集まってきます。長い目で見るとそれが一番大切だと思いますね。多くの可能性を持つ校友会は、大学コミュニティの柱になれる存在真田校友会では卒業生同士の交流だけでなく、在学生や外部の人たちとの繋がりもあるのですか?畑山もちろんあります。先日横浜の同窓会に出席したら、学生も来ていましたよ。真田そうなんですか!畑山今後実現していきたいのは、例えば在学生の保護者会に卒業生を招待して、一緒に食事をするとか。真田あまり聞いたことのない面白いアイディアですね。畑山あるいは本学を志望している高校生やその保護者、担任の先生などを呼ぶと、ステークホルダーが一気に揃う会場になりますよね。それで今度は校友会とアドミッションと学務課がタッグを組んで、スケジュールを回していく。それぞれの会場で交流イベントをやると、皆が繋がっていくと思うんです。真田実現できたら、すごいことになりますね。畑山だからあまり「校友会」という感じで限定しない方が良いのでは、と思いますね。校友会だと卒業生だけの話になってしまいますから。真田なるほど。畑山僕は、校友会は大学を取り巻くコミュニティの柱になれると思っているんです。真田と言いますと?畑山例えば卒業生の集団である校友会は、本学を志望する高校生の情報などを持っていますよね。それこそ北海道から沖縄まで。 こうした情報は非常に貴重です。また教育の観点でいうと、卒業生の中で会社を経営している人やNPO活動をしている人が、在学生にビジネスや事業について教えるといったことも、校友会が主体となってできます。真田なるほど、なるほど。畑山また学生の父母に関しては、どんなに保護者会の活動を熱心にやってくれていても、卒業すると関係が切れちゃいますよね。これはすごくもったいない。でも、校友会なら卒業生の保護者に手が届きます。そうやってネットワークを広げていって、立ち位置が変わってもちゃんと本学のメンバーシップを保持できるような体制を作っていきたいんです。真田確かに大切ですね。畑山こんなふうに、校友会ができることはたくさんありますし、いろいろなステークホルダーをつなげられるのは、校友会ならではだと思うんです。桜美林大学のことをきちんと理解した校友会が、「こういうことができますよ」と提案するモデルをつくっていけば、大学を支える大きいコミュニティの柱となり得るんです。 校友領域の課題解決の鍵はデジタルネットワークの強化真田なるほど。そうした校友領域のビジョンを実現するために、乗り越えるべき課題はなんでしょうか?畑山やはり同じ時間・空間に集まれないことでしょう。日常的・アクティブに活動する校友会を組織するには、やはりデジタルの力を借りる必要があります。デジタルネットワークの強化も課題の1つでしょう。真田先ほど、学生のライブの話でもありましたが、いかにファンになって継続的に関わってもらうか、という話だと思います。デジタルを活用するところも同じですね。畑山そうですね。組織化してファンを増やしていく1つの手法としてデジタルがあり、インフラも非常に整っているのは、良い時代になったと思います。ただ現状は、プラットフォームをFacebookに頼っています。そうではなくもっと主体的に何か空間みたいなものを創った上で、FacebookやTwitter、インスタ、YouTubeなどを使う、という形でコミュニティを維持するのが望ましいですね。真田畑山学長はWeb3やバーチャル空間でのコミュニティ運営にご興味はありますか?畑山はい。実際、VRの中で商業的なものが始まり、世の中に浸透しつつあります。ということは、VRにおいてどうやってコミュニティをつくり、コミュニケーションを取るかを考える必要があると思います。大学の各部門も一定程度VRに対応できるようにならないといけません。校友会も例外ではないでしょう。真田デジタル以外での課題はいかがです?畑山卒業生の規模に合わせて、校友会の運営方針を変える必要があります。今、本学の卒業生は約10万人になり、運営方法を一定程度アップデートする時期に入ったと思いますね。10万人の中には20代〜80代までいますが、近年は大学のキャパシティーが大きくなったので、卒業生の数も以前より増えています。20代〜30歳前後の卒業生の層が厚くなっているわけですね。これからますますこの年代が増えますから、イベントの組み方なども変えていかなければなりません。真田それは面白いです。少子化が進んでいる中で、まさにデジタル世代などこれから経済で活躍するような世代が、早いタイミングで過半数を占めるということですね。先ほどお話しされた「校友会を大学コミュニティの柱に」というビジョンを実践するために重要な話になりそうです。畑山はい、大学が留学生を受け入れたいと思う理由の1つもここにあるんですよ。留学生はそれぞれの国や地域に帰りますから、さまざまな所に大学の同窓ネットワークができますよね。真田なるほど。多様な地域や国に卒業生がいるので、彼らと日本の卒業生がネットワークでいろいろなコラボレーションを始めたら、想像できないくらい面白いことになりそうですね!畑山まさしくそうなんですよ。大学は卒業生がいつでも帰れる家のような存在であってほしい真田最後にお聞きしますが、大学は卒業生にとってどのような場所・存在になってほしいと思われますか?畑山心の根っこにある、1つのお家みたいな場所ですね。いつでも帰って来られるような、必要なときはそこに入れるような存在でありたいです。真田駆け込み寺のようなものですか。畑山そうですね。というのも、自分のことを振り返っても大学のことを思い出すのは、何かがうまくいかなかったときなんです。「そういえば先生があんなこと言ってたな、あの授業でこうだったな」とか、「もっとこんなこと学んでおけばよかったな」とか。あと、それぞれの家に雰囲気や教育方針があるように、大学にもあって、そういうものをいつでも感じ取れるような場所にしたいですね。真田具体的にはどのようなことですか?畑山大学には学術的なものが揃っていることが大前提です。しかしそれと同等に、精神的な強さや諦めない力、寛容さ、冷静さといった人間力を作る基盤のようなものがなければ、大学である意味はないと感じています。真田最初にお話しされていた、リアルな学びで得られるものですね。畑山はい。帰ってきたときに「大学の4年間でいろいろな力や考え方を身に付けたな」と、また確かめられるような、そういう場所でありたいです。卒業生や学生に伝えたいのは、社会に出てこい、ということです。社会に出てひどい目にあったら帰ってこいと。また勉強してまた出ていけば良い。大学とはそういうところじゃないですか。真田畑山学長、貴重なお話をありがとうございました。