本記事は大学のトップに校友会の価値や重要性について語っていただく連載インタビュー企画「大学トップに聞く! 校友領域の未来と可能性」の第2弾です!今回は2020年に創立120周年を迎えた、津田塾大学の髙橋裕子学長に取材させていただきました。津田塾大学は、卒業生が大学に対して関心を持ち続けられるよう、さまざまな取り組みを行っています。例えば卒業生がお互いに助け合える場や、キャリアアップのための情報交換の会を設けるなど、校友領域において熱心な活動をしています。また、髙橋学長はご自身の長い留学生活の中で、米国の大学における校友領域の施策をご覧になってきました。今回も弊社代表・真田が髙橋学長にご意見をうかがい、津田塾大学の卒業生に対する興味深い取り組みについてお話しいただきました。校友領域に携わる方にとって、貴重なお話となるのではないでしょうか。津田塾大学学長 髙橋 裕子 (たかはし ゆうこ) 氏津田塾大学学芸学部英文学科卒業。筑波大学大学院(国際学修士)、アメリカ・カンザス大学大学院にてM.A.及び Ph.D.を取得。専門はアメリカ社会史 (家族・女性・教育)。著書に『津田梅子-女子教育を拓く』(岩波ジュニア新書、2022年)等。International Federation for Research in Women’s History会長、日本学術会議会員、日本私立大学連盟常務理事、内閣府男女共同参画局男女共同参画推進連携会議議員、文部科学省大学設置・学校法人審議会会長、教育未来創造会議構成員等務める。Tsuda Visionに掲げた「同窓生と共に」真田津田塾大学では2017年に『Tsuda Vision 2030』を策定され、5つのビジョンの中に「同窓生と共に」という指針を掲げています。ビジョンに卒業生との連携強化を含めた背景や意図をおうかがいできますでしょうか?髙橋学長(以下、髙橋)ビジョン「同窓生と共に」の具体的な指針として、「津田梅子から受け継いだバトンを、次世代に確実に手渡すために、同窓生と大学の連携を強化する」と記しています。つまり、大学が卒業生と在学生をしっかり繋ぐことが大切だということです。真田繋ぐことですか。受け継いだバトンとは何を指すのでしょう?髙橋言うなれば、卒業生が学生時代に得た貴重な経験でしょうか。津田塾時代の楽しかった出来事や、勉学に励んだ日々、仲間と築いた友情などがあると思います。これまでご高齢の卒業生からお話をうかがったり、ご遺贈くださった方々の遺言を拝読したりする機会がありました。その中には「津田塾で過ごした青春の4年間、学びやその後も続いた学友との絆が、どんなに自分の人生を豊かにするものであったか」「ぜひ自分が遺すものを大学の役に立ててほしい」という言葉が多くありました。ご高齢になっても大学時代への変わらぬ愛を感じるんです。私たちは「津田愛」と呼んでいるのですが。真田「津田愛」ですか、とても素敵です!学生時代は短いけれど、とても濃い時間ですからね。髙橋はい。卒業生の中には、今の自分があるのは津田塾での4年間があったからこそ、と考えている方も多くいます。そうした方々は、自分が過ごしたような豊かな時間を在学生にも経験してもらいたい、という想いを持っていらっしゃいます。社会に出ると、さまざまな荒波を乗り越えなければなりませんから。真田荒波に出航する前に、確固たる自分を作る時間を経験してほしいということでしょうか。髙橋そうですね。また、若い卒業生たちは、就活時に先輩方にとても温かく迎え入れてもらった経験をしています。だからこそ今度は自分も同じように、後輩たちを迎え入れたいという気持ちがあるようです。真田先輩方に受けた恩を、後輩たちに返したいという気持ちですね。髙橋はい。この「循環」が非常に大切なのだと思います。卒業生のこうした想いを在学生に届けるためにも、大学が双方を繋ぐ役割を担うことが重要です。そのため私自身、校友組織との関係を非常に大切にしています。同窓会支部が日本全国や海外にありまして、支部会が開かれるときはできる限りお伺いして、現在の大学の方向性をお伝えしたり、支部の方からお話をお聞きしたりしています。今はコロナ禍のためオンラインやビデオメッセージになっていますが、同窓会とのコミュニケーションはこれからも大切にしたいと思っています。大学が活発に発信することで、卒業生の関心を惹き続ける真田ありがとうございます。貴学は卒業生に対して、大学に興味を持ってもらうためにどのような取り組みをしていらっしゃいますか?髙橋現在の大学が何をしてどのような行事を行っているか、卒業生に伝えることを意識しています。というのは卒業生にとって最も重要なのは「津田塾大学出身であることが、世間からどう評価されるか」ということです。すなわち今、大学がどうあるのか、ということが卒業生にとって非常に大切なのだと思います。真田なるほど。実際にどのように伝えていらっしゃるのでしょう?髙橋例えば本学では『Tsuda Today』という広報誌を年に4回発行していますが、それを卒業生にもお送りしています。一方で同窓会が発行する『津田塾たより』という全同窓生を対象にした小冊子を教職員にも配っています。双方の定期刊行物をシェアし合うことで、大学の現状と、同窓会の企画・卒業生の動向などをお互いに把握できるんですね。真田卒業生と教職員が「定期刊行物をシェアし合う」というのは、なかなか無い取り組みかもしれませんね。髙橋そうですね。『Tsuda Today』では、退任する教員や定年退職した職員をご紹介しているので、卒業生は自分がお世話になった先生のご退任を知ることができるんです。すると最終講義後のレセプションに、たくさんの卒業生が集まってくれるんですよ。真田それは素敵ですね!髙橋ありがとうございます。ほかにも本学の創業者・津田梅子に関する書籍やドラマ、本学を取り上げたTV番組などの情報を「OGトーク」というメーリングリストを使って、卒業生に適時に伝えるようにしています。こうした取り組みを行うと、大学に関心を持ってくれますね。真田母校がメディアに取り上げられて、たくさんの方に知ってもらえることは、卒業生にとって非常に嬉しいでしょうし、母校に関心を持つきっかけになるのですね。髙橋そうですね。大学が活発に発信することが大切だと考えています。力を入れたいことはリカレント教育 ~仲間と学ぶ機会を提供する真田では卒業生に対して、今後さらに力を入れたい取り組みはありますでしょうか?髙橋リカレント教育、特に大学院教育への支援を充実させたいと思っています。卒業生が大学院に戻って学んだり、学士課程を修了した学生が大学院まで進学したり、ADVANCED DEGREE (修士号、博士号) を取得できるようにサポートしていきたいです。例えば、現在卒業生向けの修士課程として提供しているのが、英語教員を対象にした「英語教育研究コース」です。このコースを修了すると、教員の専修免許を取得できます。月に一度キャンパスに来る以外は基本的にオンラインで、平日夜や土曜日に講義をライブ配信しています。いつでもアーカイブを見られるというものではなく、決まった時間に必ず講義に出席するという形をとっています。皆さん仕事を抱えて忙しい中、協力し合って勉強しています。受講生の間に自然と強い絆が生まれますね。年齢も幅広く、40代、50代の方も多くいらっしゃるんですよ。真田自習という形ですとなかなか続けることが難しいですが、オンラインでも一斉に同じ時刻に集まって、仲間と切磋琢磨して学んで、というのはとても貴重な経験ですね。絆が生まれるのもよく分かります。オンラインコンテンツは世の中に溢れていますが、大学が主催するメリットや醍醐味はそこですよね。髙橋そうですね。インタラクティブにお話しできることがすごく重要かと思います。女子大だからこそ必要な、助け合いの場をつくる真田お話をお聞きして、貴学の校友領域の運営は盤石な印象ですが、女子大だからこその卒業生ネットワークのあり方について、どのようにお考えでしょうか?髙橋卒業生同士が助け合えるネットワークが非常に大切だと考えています。日本はジェンダーギャップがあまりにも厳しい社会で、世界の変化に追いついていません。そうした社会に本学の卒業生の多くは飛び込まなければなりません。そのためキャリア展開を始め、さまざまな段階で次のステップを踏まなければならないとき、皆で助け合える場が必要だと思っています。真田実際にどのような場を設けていらっしゃいますか?髙橋同窓会が企画しているものですと、例えば「津田キャリア塾」があります。これはOG同士の繋がりをつくったり、キャリアの悩みを相談したり、業界の垣根を超えた情報交換の場です。年に数回ゲストスピーカーをお招きして講演会を開くなど、OG同士の親睦を図っています。また「津田塾大学士業ネットワーク」という、弁護士や公認会計士などの職に就いている卒業生が集まったネットワークもあります。これは2013年に「法曹界・士業で活躍する卒業生と在学生の交流会」を開催し、参加した卒業生が中心となり、就職支援として大学が後押ししたことで始まった会です。本学には法学部や商学部はありませんが、士業で活躍する卒業生は少なくありません。士業の会は会員同士の交流や情報交換、及び士業を目指す在学生への情報提供などが主な活動です。若い卒業生たちも集まることができる場ですね。真田卒業生の親睦や情報交換の場を積極的に設けられているのですね。髙橋はい。また、卒業生の自主グループで「津田ふれあいネットワーク」という会があります。同窓会組織とは異なりますが、キャリアだけでなく、介護などの支援が必要な高齢の卒業生をサポートし合うような、共助の活動をなさっています。併せて本学の留学生たちに、日本文化を紹介する活動もしてくださっているんですよ。例えば能や狂言、歌舞伎に招待したり、京都や神戸のOG宅にホームステイさせてくださったり。こうしたネットワークもいわば女子大だからこその、本当にきめ細やかな活動であると感じています。真田一般的な同窓会ネットワークより深い繋がりという印象を受けます。大学からそうした活動をお願いしているわけではないけれど、自主的にご自分たちの役割の一部と考えていらっしゃるのですね。髙橋こうしたご支援に、私自身も本学の教職員も深く感謝しております。学長として「ふれあいネットワーク」の方々とは深くコミュニケーションを取らせていただいています。米国の大学が力を入れる、卒業生情報の徹底したデータベース化真田では最後におうかがいしたいのですが、髙橋学長は留学等で長く米国にいらっしゃいました。卒業生の寄付率などを見ても明らかなように、米国の大学の校友領域に対する施策と、日本の大学の施策には大きな差があります。日米の違いはどんなところにあるとお考えになりますか?髙橋米国の大学は卒業生ネットワークのデータベース作りにかなり投資をしている印象があります。以前米国の女子大学の同窓会長の話を聞いたことがあるのですが、例えばボストンに勤務していた卒業生が、カリフォルニアのシリコンバレーに異動したとしますよね。新しい生活を始めるにあたり、その地域に卒業生が住んでいるか、データを調べれば瞬時に分かるようになっているそうです。真田卒業生自身も調べられるのですか?髙橋はい。加えて同窓会のネットワークで「住居を借りるにはどうしたら良いか」「こういう人に話を聞いてみたい」といった相談ができるようになっていると聞きました。真田それは便利ですね!髙橋そうですね。ほかにも卒業生だけでなく、その家族がどういう仕事をしているのか、任意で公開している方もいて、インターンシップの引き受け先になっているそうです。このように卒業生データベースを作ることで、大学コミュニティにおいて大きなネットワーク力を発揮しているという印象が残っています。それだけ米国の大学は卒業生に対する施策に投資しているということです。真田大変勉強になりました。髙橋学長、興味深いお話をありがとうございました!