近年、大学は学習カリキュラムだけでなくさまざまなサービスを提供するようになっています。その1つとして、学生が大学の先輩やOB・OGなどからサポートを受ける「メンター制度」があります。大学生の時間は、幅広い選択肢の中から人生を選択する重要な時期といえます。そのため、大学でさまざまな人と関わりネットワークを形成していく中で、進路選択に活かしていく必要があります。今回は、大学が在学生向けに提供している「メンター制度」に焦点を当て、その意義や重要性について解説し、各大学が実施するメンター制度の事例をご紹介します。1. 大学のメンター制度の意義メンター制度といっても、就職活動をサポートするメンターや、女性研究者の悩みに寄り添うメンターなど、大学によってさまざまな役割や目的があります。このようなメンター制度には、どんな意義があるのかみてみましょう。1-1. 就職活動やキャリアをサポートできる「就職活動」や「将来設計」は、大学生の多くが抱える問題です。メンター制度を活用することによって、そのような学生をサポートすることができます。特に大学は、就職活動を経験したばかりの大学4年生や、社会人として活躍する大学OB・OGなど、大学生にとって貴重なコネクションを持っています。そのため、大学主体のメンター制度には、就職活動やキャリア選択を手厚くサポートできる、という大きな意義があるのです。1-2. プライベートな問題を含め、大学生活をサポートできる大学生が抱えている悩みは、学業や就職活動に関するものだけではありません。大学生の中にはプライベートの悩みを抱える人もおり、家庭環境や人間関係の悪化などから大学を退学してしまう学生も少なくありません。このような問題は身近な友人などには相談しにくい場合もあるため、大学のメンター制度が充実していたら非常に心強いでしょう。実際に、女性研究者のためのメンター制度など、プライベートの悩みも相談できる仕組みが整えられてきているようです。1-3. 限られた予算で実施できるメンター制度は、莫大な予算をかけずに実施できる施策です。そのため、大規模な大学だけでなく小規模な大学でも、メンター制度を整え、学生を密にサポートすることは可能です。また、OB・OGや地域との繋がりが強い大学においては、メンターを探すコストはさらに小さくなるかもしれません。これを踏まえると、どのような大学であっても比較的実行しやすいのが、メンター制度だといえます。小規模大学での事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。2. 事例① 学生数 8,000人〜 の大規模大学ここからは、メンター制度の事例を大学の規模ごとに見ていきます。まずは、学生数8,000人以上の大規模大学です。2-1. 北海道大学 「フェロー & メンター制度」北海道大学 「フェロー & メンター制度」まずは、北海道大学の「新渡戸カレッジ」という組織で実践されている「フェロー & メンター制度」です。新渡戸カレッジとは、学部教育と並行してグローバルに活躍するための知識や経験を習得することができる特別教育プログラムであり、学部生に対してはフェロー制度、大学院生に対してはメンター制度が整備されています。注目すべきポイントは2つあります。まずは、「幅広い人と関わることができるネットワーク」です。フェロー制度では、カレッジ生同士だけでなく、北大の外国人留学生や留学先の大学生と交流することもできます。北大にいながら国際的な繋がりを作り、とても貴重な経験を得ることができます。次に、「フェロー・メンターの充実度」も特徴といえます。学部生のフェローは約20人の卒業生が登録されており、企業の役員の方もいらっしゃるようです。これだけでも、大学生にとっては貴重な組織だといえます。さらに、大学院生のメンターも10人以上が登録されており、そのほとんどが修士・博士卒の卒業生となっています。2-2. 龍谷大学 「メンターシッププログラム」龍谷大学 「メンターシッププログラム」%3Ciframe%20width%3D%22640%22%20height%3D%22360%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FXBPYxSW0XYg%22%20title%3D%22%E6%B3%95%E5%AD%A6%E9%83%A8%20%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E龍谷大学法学部では、2019年にメンターシッププログラムが開始されました。ここでは、学生が自身のキャリアについて、3種類のメンタリングを通じて考えることができます。個別メンタリング:メンターと1対1での面談メンターラウンジ:1人のメンターが複数の学生と行う面談メンターフェア:複数のメンターが、複数の学生と行う面談このように、世代の違うメンターと多様な形で交流する中で、キャリアについて考えるだけでなく、社会人として必要な礼儀やエチケットも同時に学ぶことができます。2-3. 早稲田大学 「Female Researchers Mentoring System」早稲田大学 Female Researchers Mentoring System早稲田大学では、女性研究者を支援するための「Female Researchers Mentoring System」が用意されています。これは、女性の研究者・理系学生がメンターに悩みを相談できる仕組みであり、メンターには女性の教授・准教授などが多く在籍しています。研究者は男性が多いため、女性研究者視点でのキャリア設計はイメージしづらい場合があるかもしれません。そのため、女性の先輩がメンターならとても心強く、また悩みに対処するためのヒントを得る機会になるでしょう。また、女性研究者のためのメンター制度は、さまざまな大学で実施されるようになってきています。3. 事例② 学生数 4,000人〜8,000人の中規模大学次に、学生数4,000人〜8,000人の中規模大学の事例を紹介します。3-1. 昭和女子大学 「社会人メンターネットワーク」昭和女子大学 「社会人メンターネットワーク」昭和女子大学が実施するメンターシッププログラムは、最も成功しているメンター制度の1つといえます。幅広い社会人がメンターを務める仕組みとなっており、実際に以下のような実績をあげています。年間2,000人以上が利用(2022年度)約370人がメンターに登録(2023年3月時点)その最大の特徴は「メンターの約80%が他大学出身者」であるという点です。通常メンターは、大学OB・OGが務めることが多いですが、昭和女子大学では幅広い世代・出身大学の方がメンターを務めています。そのため、学生も幅広い視点からアドバイスを受けることができています。また、メンターによる自主企画も開催されており、メンター制度をきっかけに新たなコミュニティが醸成されています。3-2. 横浜市立大学 「学生キャリアメンター制度」横浜市立大学 「学生キャリアメンター制度」横浜市立大学では、内定者である先輩学生が、後輩に指導するという「学生キャリアメンター制度」を実施しています。就職活動支援においては、「先輩学生によるサポート」は非常に重要だといえます。なぜなら、就職活動の形が年々変わっていく中で、最も新鮮な情報を持っているのが先輩学生であるからです。横浜市立大学では、大学のポータルサイトを通じて学生メンターを募集しており、さらにメンターとメンティーが集うイベントも開催しているようです。4. 事例③ 学生数 〜4,000人の小規模大学続いて、学生数〜4,000人の小規模大学の事例を紹介します。4-1. 神田外語大学 「GLAキャリア・メンター制度」神田外語大学 「GLAキャリア・メンター制度」神田外語大学のグローバル・リベラルアーツ(GLA)学部では、「GLAキャリア・メンター制度」を実施しています。最大の特徴は、「2年次の1年間をメンターと伴走できる」という点です。GLA学部の2年生は、月1回のメンターセッションにて、専属のメンターとマンツーマンでキャリアを考えることができます。多くの大学では学生自身で面談を申し込む仕組みとなっていますが、神田外語大学GLA学部では初めから面談が組み込まれています。そのため、全員を確実にサポートすることが可能であり、優れた仕組みといえます。4-2. 叡啓大学 「キャリアメンター制度」叡啓大学 「キャリアメンター制度」叡啓大学は、2021年4月に新たな県立大学として設置され、1学年で約100人が在籍しています。キャリアメンター制度では、他大学出身の34名がメンター登録しており、学生の多様なキャリア設計をサポートしています。メンターの多様性が大きな特徴であり、アントレプレナーシップやイントレプレナーシップを発揮し活躍する方ローカル・グローバル・グローカルに活躍する方仕事に加えて社会貢献活動をしている方このような方からアドバイスを受けることができます。広島で活躍される方も多く、1学年100人弱という大学の規模を考慮すると、メンター制度は非常に充実しているといえるでしょう。5. 事例④ 海外大学最後に、海外大学の事例も紹介します。5-1. スタンフォード大学 「STAFF MENTORSHIP PROGRAM」スタンフォード大学 「STAFF MENTORSHIP PROGRAM」スタンフォード大学では、医学部で働く方へのメンター制度が非常に充実しています。スタンフォード大学は、世界トップレベルの研究力を持つ大学であり、医学分野においても常に最先端の研究が行われています。この研究力を支えるための重要な仕組みの1つが、メンター制度なのです。メンター制度では、医学部の経験豊富なスタッフがメンターとなり、医学部教職員が専門能力・ネットワーク・リーダーシップスキルなどの獲得をサポートしています。また、医学部内でのキャリアパスを設計するためのメンタリングも可能となっています。以上のように、医学部スタッフ同士の繋がりが、スタンフォード大学の最先端の研究力や指導力を支えているといえます。5-2. ハーバード大学 「HARVARD MENTORING PROGRAMS」ハーバード大学 「HARVARD MENTORING PROGRAMS」ハーバード大学では、5種類のメンター制度を揃えており、世界で見てもメンター制度が充実している大学の1つといえるでしょう。メンター制度は以下の5種類となっており、学生自身の属性や目的によって、適切なメンターを活用することが可能です。学部生のためのメンター大学院生のためのメンターSTEM(科学、技術、工学、数学)の分野でのコミュニティ促進のためのメンター医療分野の学生のためのメンター教職員のためのメンターこのように、あらゆる学生や教職員に対してメンター制度が整えられています。また、STEM(科学、技術、工学、数学)の分野においてコミュニティを重要視していることも、注目すべき点だといえます。6. メンター制度を成功させるコツここでは、メンター制度を成功させるために重要な点を説明していきます。6-1. どのようなメンタリングに需要があるか明確にする大学によって、その規模や学問領域などはさまざまであるため、メンター制度に対する需要も、大学の属性によって大きく異なっています。実際に事例を見ても、「女性研究者へのメンタリング」や「グローバル人材育成のためのメンタリング」など、大学によって内容はさまざまでした。また、ハーバード大学はメンタリング需要を細かく把握しているお手本であり、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の学生のためのメンター制度が整えられています。ハーバード大学 「STEM MENTORING PROGRAMS」自大学では、「誰が」「どんな」悩みを持っていて、「誰に」相談したいのか、1つずつ明確にしていくことが重要です。6-2. メンターの「数」の充実化メンター制度を実施していく中で苦労するのは、やはり「メンター集め」でしょう。充実したメンター制度を整える上では、「メンターの数」は非常に重要だといえます。以下に、メンターの数を増やすために重要な点をまとめています。卒業生データベースの活用メンターを増やしていく上で、候補として最適なのはやはり大学OB・OGです。同窓会組織などと連携して卒業生DBを活用し、卒業生とコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。外部のメンターの活用「OB・OGだけではメンターが足りない」という大学もあるでしょう。その場合は、外部からメンターを雇うことも有効だといえます。実際に昭和女子大学では、外部メンターも積極的に募集することで、メンターを約370人にまで増やすことができています。メンタリングの時間・場所をフレキシブルにメンターを務めたくても、時間や場所の都合が悪いという場合も多いでしょう。その中でメンターの数を充実させるには、よりフレキシブルにしていくべきだといえます。「面談をオンラインで実施できるようにする」など、できる範囲で変えていくことが必要でしょう。上記を意識し、メンターの数を充実させていくことが重要です。メンター制度は、大学職員だけでは難しいため、卒業生や他大学出身者もうまく活用していくべきだといえます。6-3. メンターの「質」の充実化メンターの「数」だけでなく、「質」も非常に重要です。メンターの質を高める上では、「メンター自身の知識や経験は学生とマッチするのか」や、「学生に誠実に接することができるのか」などをみていく必要があります。以下に、メンターの質を向上させるために重要な点をまとめています。質を担保させるための審査基準などを設けるただメンターの人数を増やすだけでは、「メンターの質が落ちてしまう」という危険もあります。そのため、メンターの質を担保するための審査基準を明確にすることが必要だといえます。メンターの仕事は、学生の悩みと向き合うという非常に重要なものです。そのため、誠実さや思いやりなどの重要な要素に関しては、基準を明確に持って募集する必要があるでしょう。学生とマッチしやすいように、メンターを幅広く募集する同じような経験や知識を持ったメンターばかりだと、多様な学生の悩みに対応するのは難しいこともあるでしょう。そのため、メンターを幅広く募集し、学生とマッチしやすくするのは重要だといえます。特に、規模の大きな総合大学などにおいて学生の活動が多岐にわたる場合は、「メンターの幅広さ」にこだわってみるのも有効かもしれません。6-4. 管理システムの導入メンターやメンティーの数が多くなると、管理も難しくなるでしょう。その場合は、アナログな仕組みを改善する必要があるかもしれません。例えば、データベースやマッチングを自動または半自動的にできるシステムの導入が考えられます。そうすることで、大学職員が日程調整などに時間を割く必要がなくなり、メンター制度の規模が拡大しても十分に管理することができます。7. まとめメンター制度は、大学内でのコミュニティを創出することができるものであり、すでにさまざまな規模の大学で行われています。学生のサポートやネットワーク構築を強化するため、今回取り上げた事例を参考に取り組んでみてはいかがでしょうか。Alumni Labs (アラムナイラボ) を運営する笑屋株式会社は、卒業生ネットワークを活かしたキャリア支援プラットフォームを通して、全国の大学様をご支援しています。ご興味がある方は、下記までご相談ください。Alumni labs キャリア支援プラットフォームのご案内