大学収入において、外部からの資金調達「寄付金集め」がますます重要度を増しています。近年はコロナ禍により1人でも多くの人の寄付を集めようと、一口1,000円や5,000円からといった少額の寄付を集める大学や寄付プロジェクトが脚光を浴びました。寄付のあり方が変化の時を迎えている今、今まで寄付経験がなかった25歳の筆者が、昨年初めて大学へ1万円を寄付した経験をもとに「どうすれば寄付をしたことがない若手が寄付に興味を持つか」をテーマに、若手の寄付事情や少額寄付プロジェクトの事例を挙げながら解説していきたいと思います。<目次>1. 日本の大学の寄付事情と、寄付率の低い若手まずは日本の大学における寄付の状況と、若手層の寄付率について見ていきます。1-1. 20〜30代の若手層が母校に寄付する難しさ卒業生が学生時代を思い出し「お世話になったから」「恩返しをしたいから」といった理由で母校に寄付することはあるかもしれませんが、それは潤沢な資金を持つ年配層やキャリアに成功した富裕層が大半といえるでしょう。20〜30代の若手層は、まだまだ収入が低い人も多く、プライベートの楽しみを犠牲にしたり、生活費を削ったりしてまで寄付するとは考えにくいです。また、「大学へ寄付をする」という文化が根付いていないことも影響しています。寄付というと、赤い羽根共同募金や、ユニセフ、天災発生時のコンビニでの募金というイメージが先行し、普通に生活している中で大学へ寄付しようと思い至る人はごく少数といえるでしょう。1-2. 日本人の平均寄付金額と、大学寄付金の最低額日本ファンドレイジング協会が公開している『寄付白書2021』によると、日本人の寄付金額の平均値は37,657円とあります。ただし、これは平均値であり高額な寄付を行っている人が数値を押し上げているため、中央値の10,000円が寄付金額のボリュームゾーンといえるでしょう。引用:寄付白書2021「平均寄付金額」また、数十万円から100万円単位の寄付金を受け入れている印象が強い大学ですが、寄付金を多く集めている国内の国立・私立上位3大学 (京都大学・東京大学・大阪大学・慶應義塾大学・日本大学・早稲田大学) の基金サイトを見ると、募集している寄付金の最低金額はどこも1万円でした。日本人の寄付金額のボリュームゾーンと同程度の金額です。しかし、新型コロナ関連の20代の平均寄付金額は約8,000円とあり、大学が募集する最低寄付金額をわずかに下回っています。引用:寄付白書2021発刊プレスリリース「新型コロナ関連の寄付者率(年齢層別)」さらに、「性別・年代別寄付者率」を見ると、20代の割合が特に低いことが示されています。引用:寄付白書2021発刊プレスリリース「性別・年代別 寄付者率」これらのデータから、若手層が「寄付してもいいかな」とまず思えるようにするには、募集する寄付金額を1万円からもう少し減らし、金額に対するハードルを大きく下げてあげる必要があるでしょう。2. 少額寄付プロジェクトや実施大学の事例ここからは具体的な少額寄付プロジェクトの事例をご紹介します。クラウドファンディングなどすでに確立されている取り組みもありますが、「どんなところが若手でも寄付に参加しやすいのか」という視点で改めて解説したいと思います。2-1. 1万円募金キャンペーンhttps://kifu.waseda.jp/campaignhttps://www.ryukoku.ac.jp/contribution/campaign.htmlコロナ禍の影響で経済的に困窮する学生の支援を主な目的として実施しています。早稲田大学はすでにキャンペーンを終了していますが、2021年1月〜2022年3月の期間中に約1億3,000万円の寄付を集めることに成功しました。少額からでも大学や学生を応援できるということもあり、早稲田大学では寄付のあった約9,000名のうち、約4,000名が初めて、もしくは10年ぶりに寄付を行った人たちでした。若手層からの寄付も多く、少額のキャンペーンは寄付行動を促す施策としてとても有効であることが分かります。2-2. オンラインチャリティーイベントhttps://www.giving-campaign.jp/Giving Campaign2022は、「全国の大学・大学生を応援し、教育・研究分野への支援の輪を広げる」という目的で行われ、多くの国立大学がイベントへ参加し、累計7,000万円を超える寄付金を集めました。イベントへの参加方法には、寄付だけではなく「応援」の選択肢も用意されており、収入的にお金を出すことが難しい方は「応援」のみの参加も可能としていました。「応援」という形でもプロジェクトを支援することができれば、自分も寄付の取り組みに参加できている、と実感できます。また、寄付をする場合でも、募集額は1,000円〜10,000円とかなりの少額から受け付けており、気軽にイベントへ参加できる方法が採用されています。2-3. クラウドファンディングクラウドファンディングは医療や科学を発展させるための研究費用の寄付を募るために利用されることが多いですが、コロナ禍で「学生支援」「部活などの課外活動支援」といった内容のプロジェクトも増加しました。プロジェクト例)国立大学本気の挑戦!筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトバイトがなくなり困窮する学生に100円でごはんを食べさせたい!#ようこそ広大プロジェクト 地元食材で学生生活の始まりを支えたい!クラウドファンディングは3,000円や5,000円から寄付を募集しており、上記のプロジェクト例からも分かるように、10万円以上の寄付コースよりも、1万円以下の少額の寄付コースの方へ寄付する人が多いです。とくに「学生支援」のクラウドファンディングは、その大学の卒業生や若手層はもちろん、大学と直接関係のない層にも「助けてあげたい」「応援してあげたい」という気持ちを想起させやすく、共感性が高いのが特徴といえます。また、広島大学のプロジェクトでは、全ての寄付コースに「○○円の支援で~人の学生が支援を受けられます」と記載があり、自分の寄付額でどれくらいの人が助かるのかが明確に表記されているため、支援者が寄付後のイメージを持ちやすくしています。3. その他、ユニークな少額寄付https://dxtalk32.peatix.com/こちらの取り組みはファイナンス分野の早稲田OBOG会である非営利の団体、ファイナンス稲門会が開催している連続オンラインセミナー企画です。参加費は無料ですが、イベント集客ツール「Peatix」を使い、学生支援を目的とした1,000円の寄付チケットも任意で申し込めるようにしています。4. 寄付金額を少額にする効果上でご紹介したような少額寄付プロジェクトを目にし、また実際に参加して体験してみた中で、寄付金額を少額にすることで寄付者側にどのような効果をもたらすのかを考察してみました。4-1. 若手層や寄付経験がない人でも寄付しやすい大学にとって、10万円〜100万円規模の寄付と比較すると、1万円や1,000円といった金額は微々たるものかもしれませんし、「研究を推進するための費用や、大学の運営資金を賄うには少額過ぎる」と後ろ向きに思う方もいるでしょう。しかし、貯蓄に余裕がある人の高額な寄付を期待するのではなく、若手や今まで寄付に関心がなかった層や、学生でも寄付に参加できる点が少額寄付施策の一番のメリットです。海外と比較した日本の大学への寄付率の低さ、大学運営資金の減少といった背景からも、富裕層からの高額寄付に依存するのではなく、若手や大学ステークホルダー以外の幅広い層から寄付を受け取れる仕組みや寄付文化の定着が今後重要になってくるでしょう。4-2. 繰り返し寄付をしてくれるようになる1,000〜2,000円であれば、Apple Musicなどの音楽ストリーミングサービスや、Netflixなどの動画配信サービスといったサブスクリプションの月額と同程度の金額であるため、仕組み次第では1度だけでなく繰り返し寄付してくれることも期待できます。少額寄付は今までリーチできていなかった層から新たに寄付を獲得できる方法であり、かつ寄付者側にとっては気軽に寄付活動へ参加できて、リピートもしやすい効果があるのです。やはり1回目の寄付が一番のハードルであるため、いかに最初の寄付を実現させるかが重要になります。一度寄付をすれば寄付活動への精神的なハードルが下がり、寄付をしたプロジェクトや団体の今後の活動にも興味関心が湧くものです。たとえ1回1回は少額でも、将来的には大きな寄付金額になるでしょう。5. 若手層に寄付を促すうえで大切なことここからは、若手層の1人である筆者が実際に大学へ寄付をしてみて気づいた、若手や寄付経験のない方に対して寄付を促すために必要な要素を考察してみましたので、1つずつ解説します。5-1. 寄付募集ページにいくらから寄付が可能か明示する各大学の基金サイトには「いくらから寄付できるか」が具体的に明示されているケースは多くありません。「寄付をする」ボタンをクリックして、個人情報と支払い方法を入力している途中で初めて1万円から寄付できることを知る、という基金サイトもあります。寄付プロジェクトにかける運営側の想いを記載することも大事ですが、「いくらから寄付を受け付けているか」「どんなに少額でも大変ありがたい」といったメッセージもサイトの目立つ部分にきちんと伝えることで、寄付者側も安心して寄付することができるでしょう5-2. 寄付完了までの手続きをできるだけ簡単にすること寄付するまでの手続きがハードルになっているケースもあります。特に若手はネット通販などを使う際、申し込む時の手続きが煩雑だったり、自分がよく使っている支払い方法が対応していないと、購入へのモチベーションが急激に下がってしまいます。キャッシュレス化が進む中で、スマートフォンで寄付を完結できるのは支援者側としては大きなメリットになるでしょう。具体的には下記の手法が挙げられます。Amazonペイメルカリ寄付東京大学 https://utf.u-tokyo.ac.jp/htd/638青山学院大学 https://www.aoyamagakuin.jp/support/variety/mercari早稲田大学 https://kifu.waseda.jp/Yahoo!ネット募金東京大学 https://utf.u-tokyo.ac.jp/htd/yahoo京都大学 https://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/contribution/nobel/ PayPayなど、その他電子マネー系 5-3. 寄付したお金がどのように使われるかが寄付前に分かるただ「○○の発展のために寄付をお願いします」と基金サイトに載せるだけでは、支援者に対して説明不足です。寄付プロジェクトの想いや課題背景の記載はもちろん、「寄付は何に使われるか」「誰が・いくらで・どれくらい(何人)・どのように助かるのか」を明記することで、寄付者は寄付後のイメージを描きやすく、寄付行動の促進に繋がります。5-4. 寄付者の心を動かす「ストーリー」がつくられているかふるさと納税の返礼品のようなメリットがなくても、1人でも多くの若手層が「寄付しよう」と思ってくれるには、寄付プロジェクトの内容に納得して共感できる (自分事として捉えてくれる) ストーリーがあるかどうかが重要です。ストーリーとは、具体的な例でいうと、寄付内容「コロナ禍で学生がご飯を食べられないので支援してほしい」↓バイトもなかなかできないだろうし、自分も大学時代は金欠で本当に苦労したなぁ...。コロナのせいで不自由な思いをするのはかわいそう。勉強を頑張るためにも、学生生活を謳歌するためにも、ご飯と栄養は大切! 助けてあげたい!というような、寄付者が「寄付をしたい」と思うまでの気持ちの動きのことを指します。逆に言えば、"寄付プロジェクトの立ち上げ背景〜寄付をお願いする"までの寄付者が納得できるストーリーやインパクトが薄いと、目標の寄付金額を集められなかったり、狭いコミュニティからしか寄付を集められない可能性もあります。富裕層や経営層といった層だけでなく、若手層やその大学とは全く関わりがなかった一般層も寄付活動に巻き込めるよう、その寄付プロジェクトに寄付する人の心を動かせるストーリーがどれだけあるかが、より多くの人から寄付を集めるうえで重要になるのです。6. まとめ大学運営において寄付金はとても大切な収入源であることは大学業界にとって常識になっている一方で、若手層の大学に対する寄付文化はまだまだ発展途上にあります。クラウドファンディングやキャッシュレス化、今回ご紹介した少額寄付など、寄付がしやすくなる仕組みや機能が浸透する中、大学もこうした流れをうまく利用することが重要です。この記事を参考にして、よりよい寄付施策が生まれますと幸いです。Alumni Labs (アラムナイ ラボ) では、寄付集めを最大化する為の様々なサポートを提供しております。適切な名簿管理や卒業生の活性化、イベント企画など、ぜひ下記からお気軽にご相談ください。Alumni Labs 相談・問い合わせフォーム